最近、車いす生活のとある患者さんが、まっすぐ座れなくなってきたので、車いすももう限界かなぁ、というお話が出ました。

車いすにまっすぐ座れなくなってきて寝かせることが増えた→寝たきり、という経過をたどる方は結構多いのではないでしょうか。

そういう時に選択肢として私がよくご提案するのが「ティルト式車いす(チルト式など呼び方はいろいろ)」です。

簡単に言うと、車いすの椅子部分だけの角度を変えられる車いすです。

この車いす、何がおすすめか、というと。

筋力が落ちて普通の車いすや椅子ではまっすぐ座れなくなってきた方でも、座ることができる、のです。

文章で説明するのが難しいので、へたくそながらイラストを描いてみました。

左が普通の椅子または車いすの場合。
座面が地面と水平なため、頭や体幹などの体の重たい部分の重さはまっすぐに座面のみ、すなわち、お尻や太ももの裏の面だけにかかってきます。
となると、これを支えるためには体幹の筋力が必要不可欠になってきます。

そして右側がティルト式車いすの場合
座面を地面に対して角度をつけた状態で座ることができます。
そのため、頭や体幹の重たい部分の重さは、座面だけでなく背もたれ側(背面)にもかかってきます。
お尻よりも背中のほうが面積が広いので安定感が増し、筋力がおとろえてしまった寝たきりの方でも、車いすに座ることができる、というわけなのです。

 

座る、ということは体に様々な良い影響をあたえてくれます。

まず頭が体より高い位置にある、というだけで、脳は体や頭の位置を安定させようとする信号をおくります。それだけで脳に刺激が入る、ということです。

次に呼吸面への影響。寝た状態では肺が重力によって背中側に押しつぶされやすくなり、十分な呼吸がしにくくなりますが、座るとおなか側のほうに重力がかかるため、肺は押しつぶされることがなくがなり、呼吸量を保つことができます。

そして消化器系にも良い影響が。
当たり前ですが食べ物は口から入ってお尻から出てきますよね。
寝た状態では肺と一緒で消化管(胃や腸)も背中側押しつぶされるような形になり、食べた物が通りにくくなるのと同時に、食べた物にも背中側への重力が当然かかるため、お尻の方向に進みづらくなります。
座ることにより、消化管は動きやすくなり、また食べ物は重力に手伝ってもらってその中を進みやすくなるのです。これにより消化が促進されたり、便秘の予防になったりします。
(もちろん食べ物は重力だけで進むわけではなく、腸のぜん動運動によって主に運ばれます!)

泌尿器でも言えます。
寝たきりの状態では尿は膀胱の出口より少し後ろ側にたまりやすくなり、排尿してもその部分に尿が残ってしまうことがあります。そこに尿中の重たいものがたまりやすくなってしまい、それが原因で膀胱炎になったりもします。座ることでこう言った危険性を減らすことができるのです。

などなど数え上げればきりがないくらい、座る、ということにはいいことがいっぱいなのです。

と、なんともつたない説明で恐縮ですが、座ることの威力、少しはお伝えできたでしょうか…?(;^_^A

以上のような理由から、まっすぐ座れないというだけで、座ることをあきらめることなく、一度このティルト式の車いすの使用を検討してみていただけたらな、と思います。
もちろん介護保険でのレンタルも可能です。
ぜひ一度ケアマネージャーさんに相談してみてください。

担当ーN